【事例解説】紀州のドン・ファン事件と遺産相続

こんにちは。太田尚道(おおたたかみち)税理士事務所の所長、太田です。

2018年5月24日、「紀州のドン・ファン」コト野崎幸助さん(享年77)さんが亡くなられました。
紀州のドン・ファン事件から、はや丸3年になろうとしています。

紀州のドン・ファン
引用元:Amazon  (講談社+α文庫・880円)

先日、元妻である須藤早貴(さき)さん(25)が殺人などの容疑で逮捕、起訴されました。

ようやく捜査がすすみ、紀州のドン・ファン事件の真相は解明されつつあります。

ますます事件の行方に目が離せなくなりました。

野崎さんは13億円ともいわれる財産を残して亡くなりました。

本件に関して、「犯人はだれか?」ということ以上に、ズバリ世間のみなさんの関心を集めていることのひとつに「遺産相続の行方」があるのではないでしょうか?

野崎さんの遺産相続に関しては、民事上の訴訟(遺留分減殺請求権および遺言書の有効性)と刑事上の訴訟(殺人事件)が密接に関係し、不確定な部分があります。

今後、「13億円の遺産はどうなるのか?」を解説していきたいと思います。

■目次

1.相続人になるのはだれ?
2.紀州のドン・ファンの遺言書は有効?無効?
3.遺留分減殺請求権ってなに?
4.遺産が受け取れなくなるのはどんなとき?
5.事件の真相-「真犯人」の正体

1. 相続人になるのはだれ?

原則、配偶者は常に相続人になります。

もし、野崎さんに子供がいれば子供も相続人になり、法定相続分は妻が1/2、子供が1/2となります。

しかし、野崎さんには子供がいません。

子供がいない場合、次の相続順位は直系尊属(父母など)になりますが、ご両親も亡くなっておられると思います。

ご両親が亡くなっている場合、その次の順位である直系卑属(兄弟姉妹)が相続人になります。
野崎さんの兄弟姉妹4名が相続人になります。

原則、遺言書が残されていない場合、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。

血族相続人の順位に関しては、くわしくは、下記の太田尚道税理士事務所の「相続税」のページをご参照ください。

相続人になるのはだれ?
相続人になるのはだれ?

2. 紀州のドン・ファンの遺言書は有効? 無効?

原則としては上記1.相続人になるのはだれ?でご説明したとおり、遺言書が残されていなければ、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。

ところが、野崎さんは「個人の全財産を田辺市にキフする」という内容の自筆遺言証書を残しています。

すなわち、遺言書を残している場合は、遺言書の内容が優先します。

和歌山地方裁判所

それに対して、野崎さんの親族ら4名は遺言書の無効を求めて和歌山地裁に提訴しています。

親族の方たちは「遺言書が本当に野崎さんによって書かれたものだろうか?」と、遺言書の偽造に関して疑念を抱いておられるのでしょう。
また、遺言書が「無効」でなければ、兄弟姉妹は遺産を相続することはできません。

さて、遺言書が「有効とされた場合」と「無効とされた場合」にわけて、遺産割合を確認してみましょう。

<遺言書が「有効」とされた場合>
・田辺市が1/2を取得
・元妻の須藤早貴さんが1/2を取得
*

*たとえ遺言書で「全財産を田辺市にキフする」と記されていても、妻であった須藤さんには遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)がありますので、相続財産の半分を請求する権利があります。

遺留分減殺請求に関しては、後述するの3.遺留分減殺請求ってなに?で詳しく説明していますので、そちらをご参照ください。

遺言書が「無効」とされた場合
・元妻の須藤早貴さんが3/4を取得
・親族ら4名で1/4を取得

上のとおり、遺言書が「無効」であれば親族の方たちは遺産相続する権利を有することになります。
遺言書が「無効」とされた場合、当然のことですが、田辺市は野崎さんの財産を取得することはできません。

遺言書
「紀州のドン・ファン事件」では遺言書の有効性が問われている

3. 遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)ってなに?

遺留分減殺請求※(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)?
なんだかおどろおどろしい響きを持つ言葉ですね。
それでは、この言葉の意味を説明していきますね。

遺言書の作成によって、野崎さん(被相続人)の全財産を田辺市(特定の人や団体)に遺贈することができます。
しかし、全財産を他人にあげてしまったのでは、残された家族は家や財産を失い、いったいどうなってしまうのでしょうか?

そこで、残された家族(相続人)にある一定割合の財産が残るように民法は定めています。
その残された遺産の割合を遺留分といいます。



たとえば、お父さんが飲みに行っているクラブで、店の女性に「オレの財産をぜ~んぶあげちゃうよ~♡」と遺言書を書いたとします。
前述したように、遺言書を残している場合は遺言書の内容が優先しますので、お父さんの遺産はすべてクラブの女性が相続することになります。

遺留分減殺請求
「オレの財産ぜんぶあげちゃうよ~♡」

これでは、家族は生活に困ってしまうことになります。
そうならないように、民法では遺留分を定めて、配偶者や子供が一定の遺産を受け取ることができるようにしています。


よく誤解されやすい注意点は、兄弟姉妹には遺留分減殺請求権はないということです。
なぜなら、兄弟姉妹は同じ親から生まれてきても、結婚後は基本的にはそれぞれ独立して生計を営んでいるからです。

また、兄弟姉妹は、本人が財産を形成するうえで大きく寄与しているという場合は少ないから、という考え方もあります。
いずれにせよ、本件では野崎さんの親族ら4名には遺留分減殺請求権はありません。

重要な事柄としては、残された家族が遺留分を請求するには「遺留分減殺請求」という手続きをとる必要があります。
なお、遺留分減殺請求には時効があり、相続の開始から1年以内に行わなければなりません。

※遺留分減殺請求・・・2020年4月1日施行の民法改正により、「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」となりました。

☆(遺留分侵害額の請求)
民法第1046条・・・遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。 

4. 遺産が受け取れなくなるのはどんなとき?

被相続人(亡くなられた人)を殺害したり、詐欺や脅迫などによって遺言書を書かせたりした場合、相続権が失われます。
これを欠格(けっかく)といいます。

詐欺は欠格要件になる
「詐欺」は相続人の欠格事由になる
「脅迫」は相続人の欠格事由
「脅迫」も相続人の欠格事由になる

元妻の須藤早貴さんが殺人罪で有罪になった場合、相続人の欠格事由にあたり、相続権はなくなります。

その場合の遺産割合はどうなるでしょうか?

<元妻が欠格事由にあたり、かつ遺言書が「有効」とされた場合>
・田辺市が相続財産を総取り

<元妻が欠格事由にあたり、かつ遺言書が「無効」とされた場合>
・親族ら4名が相続財産を総取り

5. 事件の真相-「真犯人」の正体

ジャーナリストの吉田隆氏の著書『紀州のドン・ファン殺害 「真犯人」の正体』を読んでみました。

本の帯のキャッチコピー「殺したのは誰だ!?」の誘い文句につられて購入してみましたが、結局、犯人については特定されていませんでした。

しかし、野崎さんを取り巻く人間関係が詳細に記述されていますので、今後の事件の展開をみるうえで参考になるかと思います。

紀州のドン・ファン事件真犯人
引用元:Amazon  (講談社+α文庫)

吉田氏の本によれば、野崎さんは「100歳まで生きる」と言っていたそうなので、目標を達成できず、道なかばで無念であっただろうと思います。

遺産の件に関しては、僭越ながら私の独断ですが、田辺市が野崎さんの全財産を受けとり、たとえば学生の奨学金など、田辺市民のために有効に活用してもらえたらなあ。。。と思っています。

野崎さんが苦労して残された財産ですので、ワタシは大きいことを言えませんが。トホホ。