【私の職業観】ひとりの人として、そして税理士として
暑中お見舞い申し上げます。
梅雨明け以降、本格的な暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
夏はスイカ。
田舎育ちゆえ、スイカに目がない太田尚道税理士事務所 所長の太田尚道(おおたたかみち)です。
扇風機の風にあたりながら、私の職業および仕事への考えについて書き綴ってみました。
なりたい職業のなかった子供時代
子供の頃から「なりたい職業」というものがなかった。
同級生の多くは、電車の運転手やプロ野球選手になりたいと言った。
「なりたい職業」のなかった私は、小学校の卒業文集に将来の夢を「大会社の社長」と綴った。
しかし、それもさりとて深い意味などなく、当時流行していた漫画『巨人の星』の主人公・星飛馬(ほしひゅうま)のライバルである花形満(はながたみつる)や伴宙太(ばんちゅうた)の父親が、それぞれ花形モーターズや伴自動車工業の社長だったからだ。
ただ何となく「社長ってカッコいいな」と憧れたにすぎない。
むろん、小学生の私に社長業の意味など分かるはずもなかった。
そして、小学生の時に将来の夢を「大会社の社長」と卒業文集にしたためた私の現在は、大会社の社長ではなく、税理士事務所の所長という零細商店のオヤジになっている。
魚屋のオヤジが魚をさばいて三枚おろしにするように、税理士は税金に関する問題を処理してさばく。
大学生ぐらいになると、さすがにもう大会社の社長になれるとは思わなかったが、会社の部長ぐらいにはなりたいなとぼんやりと考えていた。
迷走した会社員時代
そして、学生気分を引きずったまま、社会人になった。
総合レジャー会社である旧後楽園スタヂアム(現 株式会社東京ドーム)に4年半の間、勤務した。
会社員生活の前半は会社の仲間と土日に、夏はテニス、シュノーケリング、冬はスキーをして楽しく過ごさせてもらった。相変わらず社会人の自覚がないままだった。
しかし、会社員生活も半ばを過ぎたころから、次第に「このままでいいのだろうか?」と自問自答するようになった。
何のスキルもない自分自身と向きあった。
「何か手に職をつけたい」
まずは自分にできることから始めてみようと、宅建主任者の資格を取得した。
その後、難しい資格にチャレンジしてみたいと考え、税理士を目指した。
なんとしても税理士になろうと考え、背水の陣で会社を退職する覚悟を決めた。
時を同じくして、当時お付き合いしていた彼女のお姉さんから電話があった。お姉さんは「妹と結婚してあげてほしい」と言った。
突然の申し出に面食らって、ただ黙って話を聞くことしかできなかった。まさか「これから無職になります」などと言えるはずがない。
自分がこれからどうなるかさえも分からないのに、他人の人生など背負えるはずもない。
会社に辞表を提出した。
そして、会社の退職とともに、その彼女とも自然消滅した…。
もがき続けた無職時代
はれて(?)無職になり、税理士を目指して勉強していたころ、近所の市民プールで泳ぐことが唯一の楽しみだった。
1日中勉強ばかりしていると体がなまる。水泳は適度な運動にもなったし、気晴らしにもなった。
プールの底に潜っていると、「永遠に浮かび上がれないのではないか」という気持になることもあった。
まさに崖っぷちに立っている私自身の不安定な状態そのものだった。
税理士の資格を取得するまでに5年の歳月が流れた。
税理士になってから
その後、税理士資格を取得し、税務署を退職した父が開業した税理士事務所に丁稚として働き始めた。
税理士の資格を取得したものの、資格を取得してからの方が大変だった。毎日、毎日、目の前にある仕事をこなすのに精いっぱいの日々だった。
事務所のそばの安アパートを借りて、職場と自宅を往復するだけの毎日。ただただ、早く一人前になりたかった。
働き始めて10年経ったとき、父が心筋梗塞で亡くなり、急遽、会計事務所を引き継ぐことになった。
それまで父が背負ってくれていた重石が全部私自身にのしかかった。
過労で駅のホームで倒れたこともあった。
それでも、毎日仕事をこなし、一歩一歩積み重ねてきた。
仕事とは
たとえ若い人が「なりたい職業」がないとしても、それは大きな問題ではないと断言できる。
目の前にある仕事を着実に一つ一つこなしていくうちに、それが自分の天職になり、生きる道になることだってある。
子供のころに「なりたい職業」のなかった私ですら、なんとかこの年齢になるまで、身過ぎ世過ぎをしてきた。
むしろ「なりたい職業」に就いている人の方が少数派なのではないだろうか。
そうでなければ、多くの学生が何十社と会社の面接を受けたりはしないだろう。
職業人の多くは、なんとなくその仕事に就いているのではないだろうか。
仕事とは何だろうか。
人はみな、生きるため、食うために、何らかの仕事をしなければならない。
生きることは食うことだ。
食うために働く。
どうせ同じ働くのならば、プロフェッショナルとして誰にも負けないように自分の仕事をまっとうしたい。
また、プロフェッショナルであるために、他人の2倍、3倍の努力をすべきだし、努力によって才能不足も補えると確信している。
これが私の職業観である。
税理士に向いている人とは
最後に、よく聞かれる質問に答えておきたい。
「どんな人が税理士に向いていますか?」
まず、1つ目には「まじめな人」であると思う。
これは、税理士に限らず、どの職業にもいえる。
まじめでなければ、一つの職業を続けることはできないからだ。
2つ目に「努力を続けることができる人」が挙げられるだろう。
税法は世の中の変化に応じて、後追いで変わる。従って、毎年、情報をアップデートしていく必要があり、常に変化に対応していく姿勢が求められる。
変化に対応するためには税法の勉強を続けなければならない。
最後に3つ目の資質として「問題解決能力がある人」を挙げたい。なぜなら、税法は抽象的に書かれているため、それを実際の問題に当てはめて解決しなければならないからだ。
ことに税法は複雑怪奇だけれど、基本的な考え方をしっかり理解すれば、決して難しいものではないとも思う。
税理士に興味がある若い人にはぜひ挑戦してみてもらいたい。